認知症の方に遺言能力はあるのか?

結論から申し上げますと,認知症の方には原則として遺言能力はあるものの,相続人間での争いを避けるためにも,安易に遺言書を残しておくことは避けた方がよいと考えます。

民法上,「遺言ができる人」とは「15歳に達した者」(民法961条),かつ,「遺言能力がある者」(民法963条)と規定されております。遺言を残したい方が15歳に達しているかどうかは明白なる事実ですので,問題となるのは「遺言能力がある者」です。

「遺言能力がある者」は認知症,精神障害等を患っている方を対象外とする法律上の規制がないため,原則として認知症,精神障害等を患っている方であっても「遺言能力がある者」といえますので,遺言書を残してもらっても構いません。

遺言書とは被相続人の財産を相続人に残す方法等を取り決めた被相続人の最後の言葉であり,相続人間において短時間で円満な相続が果たされるように機能するものです。

もっとも,遺言書が残っており,相続人全員がその遺言書で問題ないとした場合には問題となることはありませんが,相続人のひとりでも疑義を唱える方がいれば,最悪の場合,遺言書の有効か否かを争う民事訴訟となり,遺言書のメリットである時間的に,円満な相続という遺言書のメリットがなくなってしまうことになります。

認知症を患っている方のご家族には本当に遺言書を書きたいのか,どうして遺言書を残さないといけないのか,に耳を傾けていただき,ご家族の方がその方の遺言書が適切に相続人に伝わるように注意する必要がございます。

そのためには,自筆証書遺言ではなく,公正証書に残しておいたり,遺言書を作成する際に医師の診断書を入手しておいたり,公正証書だけでなく,音声やビデオで残しておくということも考えなければなりません。相続人が遺言書の有効性を争うこと自体をとめることはできませんが,それを未然に防いだり,また,訴訟に移行した場合においても被相続人の意思を分かってもらう一助になります。

本当に認知症の方が遺言書を望んでいるのか,どうして遺言書を残さないといけないのか,遺言書を残して相続人間に争いがなくなるようになるのか,どのようにすれば相続人間に争いを未然に防ぐことができるのか,をいま一度弁護士にご相談ください。

※なお、遺言書作成に関するご相談のご相談料につきましては、内容にもよりますが有料でのご相談(税込み5,500円/30分毎)でのご案内とさせて頂いております。