遺言執行

遺言の執行とは

「遺言の執行」とは,被相続人の死後に遺言内容を実現する手続のことをいいます。

遺言の執行は常に必要になるものではなく,未成年後見人の指定,相続分の指定,遺産分割の禁止などの場合,遺言執行は不要です。また,「相続させる」旨の遺言をした場合は,執行手続をせずに当然に相続人に相続財産が帰属しますので,遺言執行は不要です。これに対し,遺贈の場合などは,引渡しや名義変更など執行のために必要な行為が想定されますので,遺言執行が必要となります。また,遺言認知のように戸籍係への届出が必要な行為についても,遺言執行が必要となります。

遺言執行者とは

このように,一定の場合には遺言の執行が必要になりますが,相続人が遺言者の意思に沿って遺言執行をするかどうかは,遺言者が遺言を作成する際には分かりません。遺言者は,そのようなリスクを回避して,自分の遺言を確実に実現してもらうために,遺言で遺言執行者を指定することができます。

遺言執行者の権利と義務

民法上,遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(第1012条第1項)。遺言執行者は,相続人の代理人とみなされ(第1015条),遺言執行者による法律行為の効果は直接,相続人に帰属します。遺言執行者がいる場合,遺言執行者以外の相続人は,相続財産の処分その他の遺言の執行を妨げる行為をすることはできなくなります(第1013条)。最高裁は,相続人がこの規定に違反して,遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のための抵当権を設定してその登記をしたケースについて,「相続人の右処分行為は無効であり,受遺者は,遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方である第三者に対抗することができる」としました(最判昭和62年4月23日)。遺言執行者は,まず最初に財産目録を作成して相続人に交付し(第1011条),遺言執行に必要な行為に着手することになりますが,この点に関連して,遺言執行者の財産目録交付義務違反等を理由に,相続人の遺言執行者に対する慰謝料請求が認められたケース(東京地判平成19年12月3日)がありますので,注意が必要です。